壱の弐 「中国と呼ばないで」
ポケットから取り出したのは六角形の輪。名は八卦炉。魔理沙愛用の魔法媒体だ。
大きさは手の平にすっぽりと収まる程度で、『炉』という名の付くとおりこの八卦炉は火を操ることが可能で、じっくりことこと煮込む程度の火力から数秒で豚も丸焼きにする程度の火力まで調整可能。この八卦炉を媒体として魔理沙のとっておきの魔法、といっても、毎回使っているので取って置きと言うほど出し惜しみしていないのだが、今回はいつもよりさらに火力を上げる為魔力を多めに込める。
今回は距離、範囲どっちも広い。手加減しては威力がしっかりと通らないだろう。まぁ、美鈴だしそう簡単に死にはしないだろう。門の前にクレーターができるくらいのはずだ。
上空は風も無く穏やか。箒に跨って浮いているが上体も安定している。突き出した手の平に八卦炉を構え、魔力を込める。今まで散々繰り返してきた魔法。何度も危機を脱してきた魔法を、改めて意識して発動させる。全身の内側からにじみ出る魔力と大気から感じ取れる魔力を練り合わせ、手に集中させていく。爆発寸前まで八卦炉に魔力を込めてゆくと、淡い橙の光が八卦炉を包んでいく。
「行くぜ!全力全壊!マスタァァァァスパァァァァァクッッ!」
破裂寸前の風船の様に膨らんだ魔力を目標に向かって押し出すように放出する。出口を見つけた魔力の奔流は勢い良く吹き出し、そして霧散した。
「・・・・・・は?まさか、これだけ距離を置いたのにまだ範囲内だっていうのか!?」
「ぶっぶー。残念、それは正解じゃありません」
驚愕する魔理沙の耳に美鈴の声が聞こえた。方向は真下。門番のくせに門から離れ魔理沙を追いかけてきて真下から強襲してきたのだ。
慌てて距離を取ろうと箒を操作しようとするがすでに遅く、魔理沙の腹部に吸い込まれるように拳が突き刺さった。
「ぐぇ!」
咄嗟に腰を捻って直撃は避けたが脇腹を抉り取られるような衝撃に肺の空気を吐き出した。
「むっ、もう勝ち目は無いんですから、無駄に足掻くと苦しいだけです、よ!」
言いながら蹴りを放つ。鋭い弧を描きながら顔面に伸びてくる蹴りを両腕でガードする。
「乙女の顔面を狙うなよな。あと生憎私は無駄な足掻きってやつが大好きでね!」
ガードした両腕が痺れているが、無理やり箒を握る手に力を込める。美鈴は続けて拳を打ち下ろそうと振りかぶっている。今なら攻撃の間に割り込めるかもしれない。美鈴の脇腹に向かって箒を叩きつける。しかし、その振りかぶる動きは囮。来るとわかっている攻撃ほど受けやすいものは無い。打ち込まされてしまったとわかったときには既に遅く、振りかぶっていた腕を落として肘で箒を叩き折る。さらに拳が振り下ろされ、魔理沙の体は地面に叩き落される。
「ぶっ!」
無理な体制から打ち込んでしまったので避けることも叶わずクリーンヒット。空中から地面に叩き落されれば骨の2~3本は覚悟しなければならないが、何故か茂みの中に落とされたのでそれほどダメージにはなっていない。
「こっちは全力だってのに、あっちは手加減してくれてるってわけか」
すげームカつく。しかし、これだけ実力差があれば仕方がないことだろう。どうやったらここを突破できるのだろうか。魔法が出ないだけでこんなにも勝負にならないとは。というか、何故魔法が出ないのだろうか?
改めて考え直す。最初はなんらかのトラップ系かと思ったがそうじゃないのかもしれない。なら私自信に問題が?いや、浮遊魔法は問題なく発動しているし、魔法も発動までの手順はしっかりと出来ていた。発動の瞬間になって無効化されたということはやはり外部からの何らかの干渉があるはず。トラップ系でないというのならいったい・・・
「諦めは付きましたか?魔理沙さん。いくら足掻いたところでここから先には通させませんよ」
茂みから身を起こすと既に美鈴が近くに立っていた。普通に立っているだけなのに、突破口が見つからない。隙がなさすぎる。しかし、諦めるのは性にあわない。何とかしてここを通れないものか・・・ん?
魔理沙は何かに気がつきニヤリと口元を歪めるが、すぐにニカッと笑い降参宣言をした。
「負けだ負けだ。今回は諦めるぜ。美鈴と殴り合いだなんて、鬼でもなけりゃ務まらないぜ」
「え?ホントに?本当に諦めてくれるんですか!?あのしつこいことで有名な魔理沙さんが!?」
何か引っかかる言い方だが、冷静さを欠いてはいけない。魔理沙はハハハと笑いながら踵を返す。
「じゃあ私はもう行くぜ。じゃ!」
自然に。あくまでも自然に全力疾走。
「遂に!遂に魔理沙さんを撃退することに成功!やった!これで咲夜さんにご褒美を貰える!毎日毎日魔理沙さんの進入を許すたびに怒られ、蔑まされ、まるで汚いものを見るような目で虐げられてきた日々も今日でお別れよ!」
天を仰ぎながら喜びの涙を流す美鈴。なんか結構不憫な思いをしてきたらしい。まぁ、だからといってやめたりはしないのだが。
「あぁ!早く咲夜さんに褒められたい!ナデナデしてもらいたい!ハグしてもらいたい!早く報告に行かなくっちゃ!えヘヘヘ、私、この報告が終わったら咲夜さんとニャンニャンするんだ・・・」
眩いばかりの笑顔で魔理沙の背中を見送った後で振り返り紅魔館に戻ろうとしたところで足を止める。
「・・・あれ?」
美鈴の視線の先にあるはずのものがない。
「・・・え?」
180度回転し、魔理沙が走り去った方角を見る。
「・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「へへ、運が私の味方をしたみたいだな。悪いな美鈴」
後方から轟く美鈴の絶叫を聞きながら魔理沙は紅魔館に向かって走っていた。
どうやら空中で殴り合っていた際に二人の位置が入れ代わっていた様で、それにいち早く気がついた魔理沙は美鈴にそれを悟られない様に走り去った訳だ。
「まぁ、こんな小細工も何もあったもんじゃないからすぐに追いかけてくるとは思うけど・・・ってもう走ってきてるな」
後方から一歩一歩が地面を割るんじゃないかというほどの力で地面を蹴り、地響きを響かせながら美鈴が追いかけてきた。
「待って!待ってくださいぃぃぃぃ!これがホントの試合に勝って勝負に負けたってやつですか!?っていうかこれじゃ咲夜さんに褒められるどころかお仕置きですよ!?大体、正面から堂々とじゃなかったんですか!?どうして背中を見せて走っているんですか!」
「それはそれ、これはこれ!臨機応変ってやつだぜ!」
恐怖なのか悲しみなのか、涙をボロボロ流しながら走る美鈴のスピードは半端じゃない。だがスタートで大分差があった分、魔理沙の方が早く門まで辿り着くはず。門まで辿りつけばあとはあの広い庭で撒いて屋敷に侵入するだけだ。というか、妨害してくるのは大概門番だけなので中に入ってしまえばなんとかなるはず。
美鈴の速度も速いが魔理沙も負けてはいない。伊達に毎日森の中を歩き回っているだけはある。
ゴールは目前まで迫っていた。しかし、美鈴ももう背後まで迫ってきていた。
「ふふふ!追いかけっこは終わりですよ魔理沙さん!よく私をここまで追い詰めましたね!精神的に!しかし、門を開けるには私の持っている鍵が必要!いつも飛んで越えていくので知らなかったかもしれませんがこれで万事休すです!箒は先ほど叩き折らせてもらいましたからね!あなたにこの門を越える術はありません!」
3メートルはある分厚い鉄板の様な門が魔理沙の行く手を阻む。確かに鍵が必要だとは知らなかった。門があって門番を倒してもそのまま飛び越えていっているのを思い出すと、なんだかこの門が不憫に思えてくるが今はそんなことに思いを馳せている場合でもない。だが、考えたからといってこの門を一瞬でどうにかできるわけが無い。ならっ!
「どっりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
駆け上がった。
1歩目、門の右に置いてあった木箱に足を掛け
2歩目、門の右の柱に足を掛け
3歩目、門を蹴り、門の上部に手を掛ける
4歩目、門に掛けた手を離さないように左の柱を蹴り、背面跳びの様な姿勢で門を飛び越える。
「そ、そんな馬鹿な!」
美鈴はその姿を呆然と見上げるしかなかった。
「私に不可能はないんだぜ!」
空中でガッツポーズを決めながら自然落下に身を任せ魔理沙が門の内側へと落ちていく。
しかし、その姿が見えなくなる途中、突如魔理沙の姿が消えた。
「へ?」
いや、消えたと言うか、何か空間に飲み込まれたような?
急ぎ門の鍵を開けて中を確認するがやはり魔理沙が中に着地した形跡はない。どうやら何者かが魔理沙を連れ去ったようだ。
「ということは、結果的には魔理沙さんは門を突破することはできなかったということですね!私の勝利です!よし、これで咲夜さんに怒られないで済む!」
よし、と小さくガッツポーズを取る。結果的には敷地内には踏み込まれていないがほぼ突破されたも同然なので、報告はしないでおこう。
「あら美鈴、だれに怒られないで済むのかしら?」
ガッツポーズのまま美鈴の顔がサーっと青くなる。
「あ、あれ?咲夜さん?何時からそこに?侵入者は無事撃退しました・・・よ?」
顔を上げればいつの間にか紅魔館で働く者の長である咲夜が仁王立ちでそこにいた。
「何時から?そうねちょうど魔理沙が飛び込んできて消えた辺りかしら?」
ニコッと咲夜さんが微笑みながら「だから何?」という顔をした。
「今日は無事に魔理沙の進入を阻止しましたよ?ホントですよ?紅魔館の土を踏ませてないですから。だから、お仕置きとかじゃなくて、どちらかと言えばご褒美をもらえるんですよ・・・ね?」
あたふたと美鈴は身振り手振りを加えながら事情を説明した。が、咲夜さんの返事は短いものだった。
「それ、無理」
途端に美鈴の取り繕うような笑顔も凍りつく。
「この状況下においては私は最強だと、あなた自分でそう言ったのよ?それが何?門番が門を飛び越えられるのをただ見上げていただけって・・・ハッ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
美鈴は恐怖で泣きながら壊れた人形のように同じ言葉をただ繰り返す。
「とりあえず残業168時間追加。あと、差し入れも当分無し。寝ているのを見つける毎に24時間残業増やすから。それと改善されるまではあなたの名前は中国よ。反論は認めないわ。以上」
「ひぃ・・・残業でもなんでもしますからその呼び方だけは・・・名前で呼んで・・・私には名前があるのに、どうして名前で呼んでくれないんですか・・・どうして・・・どうして・・・」
何かおかしなトラウマでも発生しているのか虚ろな眼で何かブツブツと美鈴・・・中国が言っている。
「名前で呼んで欲しければしっかりと仕事なさい。ほら、早く戻る!」
とぼとぼと中国が定位置に戻ったのを確認してから咲夜も仕事に戻るため屋敷の中へと戻っていく。
「あの妖怪が動いたってことは、何かする気かしらね。まぁ、お嬢様に危害が及ばないのならなんでもいいんですけど」
屋敷の中から咲夜を呼ぶ主の声がした。
「はい!今行きます!少々お待ちを!」
つづく
ポケットから取り出したのは六角形の輪。名は八卦炉。魔理沙愛用の魔法媒体だ。
大きさは手の平にすっぽりと収まる程度で、『炉』という名の付くとおりこの八卦炉は火を操ることが可能で、じっくりことこと煮込む程度の火力から数秒で豚も丸焼きにする程度の火力まで調整可能。この八卦炉を媒体として魔理沙のとっておきの魔法、といっても、毎回使っているので取って置きと言うほど出し惜しみしていないのだが、今回はいつもよりさらに火力を上げる為魔力を多めに込める。
今回は距離、範囲どっちも広い。手加減しては威力がしっかりと通らないだろう。まぁ、美鈴だしそう簡単に死にはしないだろう。門の前にクレーターができるくらいのはずだ。
上空は風も無く穏やか。箒に跨って浮いているが上体も安定している。突き出した手の平に八卦炉を構え、魔力を込める。今まで散々繰り返してきた魔法。何度も危機を脱してきた魔法を、改めて意識して発動させる。全身の内側からにじみ出る魔力と大気から感じ取れる魔力を練り合わせ、手に集中させていく。爆発寸前まで八卦炉に魔力を込めてゆくと、淡い橙の光が八卦炉を包んでいく。
「行くぜ!全力全壊!マスタァァァァスパァァァァァクッッ!」
破裂寸前の風船の様に膨らんだ魔力を目標に向かって押し出すように放出する。出口を見つけた魔力の奔流は勢い良く吹き出し、そして霧散した。
「・・・・・・は?まさか、これだけ距離を置いたのにまだ範囲内だっていうのか!?」
「ぶっぶー。残念、それは正解じゃありません」
驚愕する魔理沙の耳に美鈴の声が聞こえた。方向は真下。門番のくせに門から離れ魔理沙を追いかけてきて真下から強襲してきたのだ。
慌てて距離を取ろうと箒を操作しようとするがすでに遅く、魔理沙の腹部に吸い込まれるように拳が突き刺さった。
「ぐぇ!」
咄嗟に腰を捻って直撃は避けたが脇腹を抉り取られるような衝撃に肺の空気を吐き出した。
「むっ、もう勝ち目は無いんですから、無駄に足掻くと苦しいだけです、よ!」
言いながら蹴りを放つ。鋭い弧を描きながら顔面に伸びてくる蹴りを両腕でガードする。
「乙女の顔面を狙うなよな。あと生憎私は無駄な足掻きってやつが大好きでね!」
ガードした両腕が痺れているが、無理やり箒を握る手に力を込める。美鈴は続けて拳を打ち下ろそうと振りかぶっている。今なら攻撃の間に割り込めるかもしれない。美鈴の脇腹に向かって箒を叩きつける。しかし、その振りかぶる動きは囮。来るとわかっている攻撃ほど受けやすいものは無い。打ち込まされてしまったとわかったときには既に遅く、振りかぶっていた腕を落として肘で箒を叩き折る。さらに拳が振り下ろされ、魔理沙の体は地面に叩き落される。
「ぶっ!」
無理な体制から打ち込んでしまったので避けることも叶わずクリーンヒット。空中から地面に叩き落されれば骨の2~3本は覚悟しなければならないが、何故か茂みの中に落とされたのでそれほどダメージにはなっていない。
「こっちは全力だってのに、あっちは手加減してくれてるってわけか」
すげームカつく。しかし、これだけ実力差があれば仕方がないことだろう。どうやったらここを突破できるのだろうか。魔法が出ないだけでこんなにも勝負にならないとは。というか、何故魔法が出ないのだろうか?
改めて考え直す。最初はなんらかのトラップ系かと思ったがそうじゃないのかもしれない。なら私自信に問題が?いや、浮遊魔法は問題なく発動しているし、魔法も発動までの手順はしっかりと出来ていた。発動の瞬間になって無効化されたということはやはり外部からの何らかの干渉があるはず。トラップ系でないというのならいったい・・・
「諦めは付きましたか?魔理沙さん。いくら足掻いたところでここから先には通させませんよ」
茂みから身を起こすと既に美鈴が近くに立っていた。普通に立っているだけなのに、突破口が見つからない。隙がなさすぎる。しかし、諦めるのは性にあわない。何とかしてここを通れないものか・・・ん?
魔理沙は何かに気がつきニヤリと口元を歪めるが、すぐにニカッと笑い降参宣言をした。
「負けだ負けだ。今回は諦めるぜ。美鈴と殴り合いだなんて、鬼でもなけりゃ務まらないぜ」
「え?ホントに?本当に諦めてくれるんですか!?あのしつこいことで有名な魔理沙さんが!?」
何か引っかかる言い方だが、冷静さを欠いてはいけない。魔理沙はハハハと笑いながら踵を返す。
「じゃあ私はもう行くぜ。じゃ!」
自然に。あくまでも自然に全力疾走。
「遂に!遂に魔理沙さんを撃退することに成功!やった!これで咲夜さんにご褒美を貰える!毎日毎日魔理沙さんの進入を許すたびに怒られ、蔑まされ、まるで汚いものを見るような目で虐げられてきた日々も今日でお別れよ!」
天を仰ぎながら喜びの涙を流す美鈴。なんか結構不憫な思いをしてきたらしい。まぁ、だからといってやめたりはしないのだが。
「あぁ!早く咲夜さんに褒められたい!ナデナデしてもらいたい!ハグしてもらいたい!早く報告に行かなくっちゃ!えヘヘヘ、私、この報告が終わったら咲夜さんとニャンニャンするんだ・・・」
眩いばかりの笑顔で魔理沙の背中を見送った後で振り返り紅魔館に戻ろうとしたところで足を止める。
「・・・あれ?」
美鈴の視線の先にあるはずのものがない。
「・・・え?」
180度回転し、魔理沙が走り去った方角を見る。
「・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「へへ、運が私の味方をしたみたいだな。悪いな美鈴」
後方から轟く美鈴の絶叫を聞きながら魔理沙は紅魔館に向かって走っていた。
どうやら空中で殴り合っていた際に二人の位置が入れ代わっていた様で、それにいち早く気がついた魔理沙は美鈴にそれを悟られない様に走り去った訳だ。
「まぁ、こんな小細工も何もあったもんじゃないからすぐに追いかけてくるとは思うけど・・・ってもう走ってきてるな」
後方から一歩一歩が地面を割るんじゃないかというほどの力で地面を蹴り、地響きを響かせながら美鈴が追いかけてきた。
「待って!待ってくださいぃぃぃぃ!これがホントの試合に勝って勝負に負けたってやつですか!?っていうかこれじゃ咲夜さんに褒められるどころかお仕置きですよ!?大体、正面から堂々とじゃなかったんですか!?どうして背中を見せて走っているんですか!」
「それはそれ、これはこれ!臨機応変ってやつだぜ!」
恐怖なのか悲しみなのか、涙をボロボロ流しながら走る美鈴のスピードは半端じゃない。だがスタートで大分差があった分、魔理沙の方が早く門まで辿り着くはず。門まで辿りつけばあとはあの広い庭で撒いて屋敷に侵入するだけだ。というか、妨害してくるのは大概門番だけなので中に入ってしまえばなんとかなるはず。
美鈴の速度も速いが魔理沙も負けてはいない。伊達に毎日森の中を歩き回っているだけはある。
ゴールは目前まで迫っていた。しかし、美鈴ももう背後まで迫ってきていた。
「ふふふ!追いかけっこは終わりですよ魔理沙さん!よく私をここまで追い詰めましたね!精神的に!しかし、門を開けるには私の持っている鍵が必要!いつも飛んで越えていくので知らなかったかもしれませんがこれで万事休すです!箒は先ほど叩き折らせてもらいましたからね!あなたにこの門を越える術はありません!」
3メートルはある分厚い鉄板の様な門が魔理沙の行く手を阻む。確かに鍵が必要だとは知らなかった。門があって門番を倒してもそのまま飛び越えていっているのを思い出すと、なんだかこの門が不憫に思えてくるが今はそんなことに思いを馳せている場合でもない。だが、考えたからといってこの門を一瞬でどうにかできるわけが無い。ならっ!
「どっりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
駆け上がった。
1歩目、門の右に置いてあった木箱に足を掛け
2歩目、門の右の柱に足を掛け
3歩目、門を蹴り、門の上部に手を掛ける
4歩目、門に掛けた手を離さないように左の柱を蹴り、背面跳びの様な姿勢で門を飛び越える。
「そ、そんな馬鹿な!」
美鈴はその姿を呆然と見上げるしかなかった。
「私に不可能はないんだぜ!」
空中でガッツポーズを決めながら自然落下に身を任せ魔理沙が門の内側へと落ちていく。
しかし、その姿が見えなくなる途中、突如魔理沙の姿が消えた。
「へ?」
いや、消えたと言うか、何か空間に飲み込まれたような?
急ぎ門の鍵を開けて中を確認するがやはり魔理沙が中に着地した形跡はない。どうやら何者かが魔理沙を連れ去ったようだ。
「ということは、結果的には魔理沙さんは門を突破することはできなかったということですね!私の勝利です!よし、これで咲夜さんに怒られないで済む!」
よし、と小さくガッツポーズを取る。結果的には敷地内には踏み込まれていないがほぼ突破されたも同然なので、報告はしないでおこう。
「あら美鈴、だれに怒られないで済むのかしら?」
ガッツポーズのまま美鈴の顔がサーっと青くなる。
「あ、あれ?咲夜さん?何時からそこに?侵入者は無事撃退しました・・・よ?」
顔を上げればいつの間にか紅魔館で働く者の長である咲夜が仁王立ちでそこにいた。
「何時から?そうねちょうど魔理沙が飛び込んできて消えた辺りかしら?」
ニコッと咲夜さんが微笑みながら「だから何?」という顔をした。
「今日は無事に魔理沙の進入を阻止しましたよ?ホントですよ?紅魔館の土を踏ませてないですから。だから、お仕置きとかじゃなくて、どちらかと言えばご褒美をもらえるんですよ・・・ね?」
あたふたと美鈴は身振り手振りを加えながら事情を説明した。が、咲夜さんの返事は短いものだった。
「それ、無理」
途端に美鈴の取り繕うような笑顔も凍りつく。
「この状況下においては私は最強だと、あなた自分でそう言ったのよ?それが何?門番が門を飛び越えられるのをただ見上げていただけって・・・ハッ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
美鈴は恐怖で泣きながら壊れた人形のように同じ言葉をただ繰り返す。
「とりあえず残業168時間追加。あと、差し入れも当分無し。寝ているのを見つける毎に24時間残業増やすから。それと改善されるまではあなたの名前は中国よ。反論は認めないわ。以上」
「ひぃ・・・残業でもなんでもしますからその呼び方だけは・・・名前で呼んで・・・私には名前があるのに、どうして名前で呼んでくれないんですか・・・どうして・・・どうして・・・」
何かおかしなトラウマでも発生しているのか虚ろな眼で何かブツブツと美鈴・・・中国が言っている。
「名前で呼んで欲しければしっかりと仕事なさい。ほら、早く戻る!」
とぼとぼと中国が定位置に戻ったのを確認してから咲夜も仕事に戻るため屋敷の中へと戻っていく。
「あの妖怪が動いたってことは、何かする気かしらね。まぁ、お嬢様に危害が及ばないのならなんでもいいんですけど」
屋敷の中から咲夜を呼ぶ主の声がした。
「はい!今行きます!少々お待ちを!」
つづく
PR
と言うほど攻略でもない。
とりあえずプレイした結果を書くだけですよ。
パンヤPSPで良い点
・パソ版のキャディーも使用可能。新キャラ「シエン」含め全18キャラ使用可能。
・キャラの固定ステ+グラブのステ+アズテック(玉)+リングでステータスが決まるので、ステを気にして衣装を決めないでいい。
・リアルマネーを使わずに済むし、衣装も集めやすい。ガチャポンも結構当たりやすい。
・キャラの立ち絵が異常に可愛い。ロロが性的です。ムラムラするね!
悪い点
・最初のロードが長い(たぶんマップデータのロードが長いだけ)
・声が打った時だけで残念。ストーリーモードあるのにボイス無いとか、ね。
・電車とか乗ってるとすごくインパクト合わせ辛い!仕方が無いけど!
まぁ、箇条書きにするとそんな感じ?
続きはとりあえずエピソード2のクーまで進めた僕が、開放順とか、そんなのを書くので、知りたくない人はブラウザの戻る、でも押して頂戴。
とりあえずプレイした結果を書くだけですよ。
パンヤPSPで良い点
・パソ版のキャディーも使用可能。新キャラ「シエン」含め全18キャラ使用可能。
・キャラの固定ステ+グラブのステ+アズテック(玉)+リングでステータスが決まるので、ステを気にして衣装を決めないでいい。
・リアルマネーを使わずに済むし、衣装も集めやすい。ガチャポンも結構当たりやすい。
・キャラの立ち絵が異常に可愛い。ロロが性的です。ムラムラするね!
悪い点
・最初のロードが長い(たぶんマップデータのロードが長いだけ)
・声が打った時だけで残念。ストーリーモードあるのにボイス無いとか、ね。
・電車とか乗ってるとすごくインパクト合わせ辛い!仕方が無いけど!
まぁ、箇条書きにするとそんな感じ?
続きはとりあえずエピソード2のクーまで進めた僕が、開放順とか、そんなのを書くので、知りたくない人はブラウザの戻る、でも押して頂戴。
なんだか色々やることがあっていそがしいよぅ
という言い訳を最初にしておく!これは冗談ではない!
とりあえず、仕事に関しての忙しさはとりあえず終わったけど、まぁ20日前後からまた忙しくなるので本当につかの間の休息。あと5日しかないじゃないか・・・
絵を描いたり、小説を書いたり、ROで錐を買うために転売厨になったり、忙しいです!
小説は来週の火曜日に上げられそうです。めーりんと戦わせてたらなんだか長くなってきたのでサクッと終わらせなければ。
あと読んでて思ったのは、ギャグ成分が足りないんだね。ライトなノベルなんだから、ちょっとぶっ壊れてるくらいでちょうどいいんだよね。別に蝶シリアス狙ってるわけでもないし。まぁ、そこらへん含めて精進あるのみ。
進むにつれて上手くなっていくといいな。
絵は・・・まぁ頑張ってるよ。自分らしさを追及中です。
そんな近況報告。
ルナサとかはやっぱりジェットストリームアタックで霊夢に蹂躙されるのがお似合いだよね・・・
あ、なんか日記を上げる際に絵とか小説とか上げなきゃって概念に囚われていたので、自由に上げます。
もう、縛られるのはうんざりだ!好きなようにやらせてもらうぜ!ひゃっはー!
という言い訳を最初にしておく!これは冗談ではない!
とりあえず、仕事に関しての忙しさはとりあえず終わったけど、まぁ20日前後からまた忙しくなるので本当につかの間の休息。あと5日しかないじゃないか・・・
絵を描いたり、小説を書いたり、ROで錐を買うために転売厨になったり、忙しいです!
小説は来週の火曜日に上げられそうです。めーりんと戦わせてたらなんだか長くなってきたのでサクッと終わらせなければ。
あと読んでて思ったのは、ギャグ成分が足りないんだね。ライトなノベルなんだから、ちょっとぶっ壊れてるくらいでちょうどいいんだよね。別に蝶シリアス狙ってるわけでもないし。まぁ、そこらへん含めて精進あるのみ。
進むにつれて上手くなっていくといいな。
絵は・・・まぁ頑張ってるよ。自分らしさを追及中です。
そんな近況報告。
ルナサとかはやっぱりジェットストリームアタックで霊夢に蹂躙されるのがお似合いだよね・・・
あ、なんか日記を上げる際に絵とか小説とか上げなきゃって概念に囚われていたので、自由に上げます。
もう、縛られるのはうんざりだ!好きなようにやらせてもらうぜ!ひゃっはー!
壱の壱 来訪者
時は一日程遡る。場所は神社。幻想郷を囲う博麗の大結界を管理している今代の巫女が住まう場所。博麗の巫女、博麗霊夢が管理する博麗神社。
その神社の裏手にある母屋の一室に霊夢は座っていた。赤と白の巫女服、と言うといたって普通の巫女服に聞こえるが実際は上着の肩から二の腕までを覆う部分がざっくりと切り取られ、ところどころにヒラヒラのレースが取り付けられている。下は袴ではなくスカート。真っ赤なスカートにも白のレースがついており、女の子らしいといえば女の子らしい服装なのかもしれないが、少なくともこれを巫女服と呼ぶには抵抗があるところだ。頭には白いレースのついた大きな赤いリボンをしていて、全身赤と白の衣装を身に着けている。
「で?あんたがこんな昼間にわざわざ私を訪ねて来るなんて、いったい今度は何を企んでいるのかしら?」
今、霊夢の目の前に一人の妖怪がいる。数々の異変を解決し、その異変の数の何倍もの妖怪を懲らしめてきた妖怪退治の専門家、博麗霊夢の目の前に。
決して物怖じせず、むしろ余裕綽々の微笑を霊夢に向け堂々と座っていた。
「あら、私がただ遊びに来ただけとか、ちょっと寄ってみただけとかそういう風には考えないのかしら?」
「考えないわね」
即答した。
「だって、夕方ならまだしも、こんな日が昇りきってもいない時間にあんたが外に出ている時点で何かあるにきまってるじゃない。大寝坊妖怪の八雲紫さん?」
妖怪・八雲紫は昼はあまり姿を見せることがない。それは幻想郷の誰もが知っていることで、昼間は専ら紫の式神である八雲藍か、その式神の式である橙が行動している。噂では夜な夜な何かをしているのらしいのだが、実際に何をしているのか、それは式神である藍ですら知らないようで幻想郷の大きな謎の1つである。
「あら、こんな可愛い私だけれど一応妖怪だもの。昼に姿を現さなくても別に不思議じゃないでしょう?妖怪は夜に活動するものよ。普通は」
心外だわ。と少し怒った表情を作りながら紫はプンプンと一般論を説く。自分が一番一般論とかけ離れた存在だというのによく言ったものだ。
八雲紫は幻想郷の中でも大分古株の妖怪である。それは幻想郷という地が誕生する時にも存在したと伝えられるほどの昔から。しかし、その八雲紫も見た目は少女の様な風貌をしている。 ゆったりとした白と紫の少し派手目のドレスに身を包み、緩くウェーブのかかった金の髪は派手さを更に引き立てる。外に出る場合はどんな時でも日傘を指しており、遠目で見ても一発で誰か判るほどだ。
「ま、いいわ。私も早く帰って寝たいし、面倒な前起きしないで済むのは助かるわ。で、今日は魔理沙は来ていないのかしら?どうせここに居るだろうと思ってわざわざこの時間に出向いたのだけど」
気だるそうに姿勢を正し話を始めようとした紫だが、いつも呼んでいなくとも出てくる白黒の魔女がいないことに気がついた。
確かに気がつけば一緒にお茶を啜っていたりするが私だって逐一魔理沙の居場所を把握しているわけではない。
ないのだが、
「今日は確か……」
「今日も正々堂々正面から盗みに来たぜ!」
威風堂々。という言葉が似合うほど堂々と犯罪を宣言する。
真っ白なシャツの上に真っ黒なワンピースのような服。腰には真っ白なエプロンを巻いた全身白黒の女が腰に両手をあて、堂々の仁王立ち。白いリボンが巻いてある黒のとんがり帽子の鍔を持ち上げ、悪戯っ子のような笑顔で正面を見据えていた。
「正面から堂々と盗むのは強盗と言うんですよ?泥棒よりよっぽど性質が悪いですね」
魔理沙の正面にそびえ立つ洋館、紅魔館。幻想郷では珍しい西洋風の建物で、中には吸血鬼の姉妹と、メイドたちが住んでいる。見上げるほどの立派なお屋敷、手入れの行き届いた数々の花たちが咲き乱れる庭園、そして来るものを圧倒する巨大な壁、そして壁を越え屋敷に出入りする為の重厚な門。
「漢字で書くと『強い盗人』だな」
しかしそう簡単にこの門を潜ることは出来ない。何故ならば
「『強引な盗人』の間違いでしょう?なんにせよ、今日はあなたに勝ち目はありませんよ。怪我をする前に帰ったほうが身の為です」
この館の門番、紅美鈴がいるからだ。頭に大きな中華帽を被り、緑色のチャイナを着こなす中国拳法の達人。ピッタリと肌に吸い付くような服はそのふくよかな体のラインを際立てている。腰まで伸びたロングヘアーを揺らしながら立ちふさがる近接戦闘のスペシャリスト。近接戦闘での能力なら幻想郷最強クラスである。
そう、近接戦闘でなら、だ。
徹底した遠距離戦を仕掛けていけば何とか勝てなくもない。そこに付け込み魔理沙はいつも強行突破してきた。
遠距離対近距離では、どうしても近距離の分が悪い。もちろん、美鈴ほどの達人なら鉄砲の一つや二つどうと言うことは無い。しかし、壁とも思えるほどの大量の魔法弾を避け、接近し攻撃を叩き込まなければならない。だが、もし懐に入られてしまえば遠距離攻撃では絶対に勝ち目は無いだろう。実際、魔理沙も強引ながらも絶対に懐にだけは飛び込まれないよう注意を払い弾幕を張っている。
とりあえずは細心の注意を払いつつ遠距離戦を仕掛ければ何とかならなくも無い。
しかし、今日は何故かいつもに増して自信たっぷりな様子。何か策でもあるのだろうか?
「その様子だとまだ知らないみたいですね。と言っても、私も知ったのは昨日ですし、別に知らなくて恥ずかしいと言うことは無いですし。ま、身をもって体験するといいですよ。ささ、通りたければ私を倒してくださいね」
そう言って美鈴は軽く腰を落とし構えを取る。
知らない?いったい何を知らないと言うのだろうか。ハッタリか?
美鈴の構えからは別段変化は見て取れない。何度もここを通るうちに見慣れたものであり、何か策があるとは思えない。ここは慎重にいくべきかもしれない。だが
「今日は予定が詰まってるんでね!時間を無駄にするわけにはいかないんだ!一気に決めさせてもらうぜ!」
ポケットから取り出した小瓶を上空に放り投げ、美鈴の構えの外側に回りこむように右へ走る。走りながら左手に魔力を込めて腕を振る。左側へ曲線を描きながら当たるように魔力弾を生み出す。流れるような動作で更に正面から美鈴を狙い撃ち、頭上と右と正面の3方向から挟み撃ち、怯んだところを決め技で吹き飛ばす。いつもの手順でいつものように美鈴を倒す予定だった。
「っ!?」
美鈴の正面に魔法弾を撃ちこもうとしたところで猛烈な違和感を感じ後方へ急遽飛び下がった。
なんだ?弾が・・・出てない!?
回りこみながら撃ったはずの魔法弾が出ていない。撃った手ごたえはあったのに、飛んでいった様子は無い。まるで、撃ち放った瞬間に掻き消えてしまったかのようだ。
後方に着地と同時に最初に上空に放り投げた小瓶が地面に落ちた。本来、この小瓶にも特殊な魔法を込めており空中で爆発、四散し上空から美鈴に魔法弾の雨が降り注ぐ予定だった。しかしその瓶は空中でその魔法を発動させることなく重力に従い放物線を描いて落ちるだけだった。
地面に落ちた瓶は『ボンッ』と空気が爆ぜるような音と共に爆発した。美鈴の足元で爆発した瓶は激しい砂埃を巻き上げ二人の姿を覆い隠す。
魔法弾が出ない。しかし、瓶は爆発した。魔法を打ち消す結界か何かが張ってあるのかと思ったが、空中で四散することは無くとも爆発はする。つまり、直接的な方法であれば同等の効果は発揮できるということか?飛び道具系を無効化する罠、それが美鈴がさっき見せた余裕の表情の正体?
「さて、魔理沙さんのターンはこれで終了ですか?なら、次は私の番ですね」
砂埃で遮られた視界の向こうから美鈴の声が聞こえた。と同時に、掻き分けるように砂埃の中から美鈴が躍り出る。
「くそっ!」
毒づきながら思考を巡らせる。
設置系のトラップなら範囲は限られているはず。パチュリーならかなりの広範囲になりそうだが、いつ来るかわからない外敵に対しての罠をパチュリー自信が張るとは思えない。この門番にも扱える程度のものだとすれば・・・大体二十~三十ってところか?
詰め寄る美鈴。魔理沙との距離は3歩といったところ。近距離での戦闘は避けなければならない。近距離で戦えばこちらに勝ち目などないのだから。
しかし、美鈴が先に行動を起こした。一瞬体を縮めたかと思うと、全身をバネの様に弾けさせ弾丸の様なスピードで突きを叩き込んでくる。
魔理沙の速度では避けることは出来ない。あの拳が真っ直ぐに突っ込めば鳩尾辺りにめり込み、3日くらいはご飯が美味しく食べれなくなってしまうことは間違いない。
魔理沙は咄嗟に後方へ。突進攻撃とはそれほど選択肢が多いわけではない。スピードを生かした攻撃は必然、直線的になり易い。美鈴の攻撃も同じだ。一直線に懐へと突っ込んでくる。だからといって避けるのが簡単と言うわけでもない。美鈴の攻撃スピードは尋常ではない。それに搦め手の多い中国拳法。避けても追撃が来る可能性が高い。
魔理沙は後方へ跳んだが、当然だがバックステップよりも突進攻撃の方がスピードが速い。当然魔理沙の腹部へ吸い込まれるように美鈴の放った拳が突き刺さった。
「むっ!」
しかし、美鈴の攻撃は魔理沙が差し込んだ掌によって遮られていた。
避けたり反撃したりは難しいが、的を絞って防御に徹すればならなんとかなる。即ち、顎、咽喉、鳩尾辺りの急所だ。このあと連打を叩き込まれたりすればまた状況は変わるのだが、魔理沙は美鈴の攻撃の威力をそのまま受け止め、後方へ吹き飛んでいく。
距離を取ることに成功した魔理沙はすぐさま次の行動を開始する。
「距離を稼いだところでどうにもなりませんよ?」
今の美鈴の反応、離れられるとまずくて挑発しているのか。真偽は定かではないが、まずは行動してみなくてははっきりしない。
吹き飛ばされた勢いのままさらに2回ほど後ろに飛ぶ。十分に距離を稼いだところで魔理沙は箒に跨り上空へ飛び上がる。
さっきの魔法を無効化するトラップが、一定空間内の魔法を無効化する。なんて超万能な性能ではないはず。たぶん、一定空間内で発動する魔法をキャンセルする。程度のものだろう。無効化できるのだったら美鈴はそのトラップ内にいれば無敵。追いかけてきたということは、外から攻撃されればひとたまりも無いのだろう。
「それなら、罠の範囲外から全部まとめて焼き払えば問題無し!」
ニヤリと、危ない笑みを浮かべ、魔理沙はポケットに手を突っ込んだ。
時は一日程遡る。場所は神社。幻想郷を囲う博麗の大結界を管理している今代の巫女が住まう場所。博麗の巫女、博麗霊夢が管理する博麗神社。
その神社の裏手にある母屋の一室に霊夢は座っていた。赤と白の巫女服、と言うといたって普通の巫女服に聞こえるが実際は上着の肩から二の腕までを覆う部分がざっくりと切り取られ、ところどころにヒラヒラのレースが取り付けられている。下は袴ではなくスカート。真っ赤なスカートにも白のレースがついており、女の子らしいといえば女の子らしい服装なのかもしれないが、少なくともこれを巫女服と呼ぶには抵抗があるところだ。頭には白いレースのついた大きな赤いリボンをしていて、全身赤と白の衣装を身に着けている。
「で?あんたがこんな昼間にわざわざ私を訪ねて来るなんて、いったい今度は何を企んでいるのかしら?」
今、霊夢の目の前に一人の妖怪がいる。数々の異変を解決し、その異変の数の何倍もの妖怪を懲らしめてきた妖怪退治の専門家、博麗霊夢の目の前に。
決して物怖じせず、むしろ余裕綽々の微笑を霊夢に向け堂々と座っていた。
「あら、私がただ遊びに来ただけとか、ちょっと寄ってみただけとかそういう風には考えないのかしら?」
「考えないわね」
即答した。
「だって、夕方ならまだしも、こんな日が昇りきってもいない時間にあんたが外に出ている時点で何かあるにきまってるじゃない。大寝坊妖怪の八雲紫さん?」
妖怪・八雲紫は昼はあまり姿を見せることがない。それは幻想郷の誰もが知っていることで、昼間は専ら紫の式神である八雲藍か、その式神の式である橙が行動している。噂では夜な夜な何かをしているのらしいのだが、実際に何をしているのか、それは式神である藍ですら知らないようで幻想郷の大きな謎の1つである。
「あら、こんな可愛い私だけれど一応妖怪だもの。昼に姿を現さなくても別に不思議じゃないでしょう?妖怪は夜に活動するものよ。普通は」
心外だわ。と少し怒った表情を作りながら紫はプンプンと一般論を説く。自分が一番一般論とかけ離れた存在だというのによく言ったものだ。
八雲紫は幻想郷の中でも大分古株の妖怪である。それは幻想郷という地が誕生する時にも存在したと伝えられるほどの昔から。しかし、その八雲紫も見た目は少女の様な風貌をしている。 ゆったりとした白と紫の少し派手目のドレスに身を包み、緩くウェーブのかかった金の髪は派手さを更に引き立てる。外に出る場合はどんな時でも日傘を指しており、遠目で見ても一発で誰か判るほどだ。
「ま、いいわ。私も早く帰って寝たいし、面倒な前起きしないで済むのは助かるわ。で、今日は魔理沙は来ていないのかしら?どうせここに居るだろうと思ってわざわざこの時間に出向いたのだけど」
気だるそうに姿勢を正し話を始めようとした紫だが、いつも呼んでいなくとも出てくる白黒の魔女がいないことに気がついた。
確かに気がつけば一緒にお茶を啜っていたりするが私だって逐一魔理沙の居場所を把握しているわけではない。
ないのだが、
「今日は確か……」
「今日も正々堂々正面から盗みに来たぜ!」
威風堂々。という言葉が似合うほど堂々と犯罪を宣言する。
真っ白なシャツの上に真っ黒なワンピースのような服。腰には真っ白なエプロンを巻いた全身白黒の女が腰に両手をあて、堂々の仁王立ち。白いリボンが巻いてある黒のとんがり帽子の鍔を持ち上げ、悪戯っ子のような笑顔で正面を見据えていた。
「正面から堂々と盗むのは強盗と言うんですよ?泥棒よりよっぽど性質が悪いですね」
魔理沙の正面にそびえ立つ洋館、紅魔館。幻想郷では珍しい西洋風の建物で、中には吸血鬼の姉妹と、メイドたちが住んでいる。見上げるほどの立派なお屋敷、手入れの行き届いた数々の花たちが咲き乱れる庭園、そして来るものを圧倒する巨大な壁、そして壁を越え屋敷に出入りする為の重厚な門。
「漢字で書くと『強い盗人』だな」
しかしそう簡単にこの門を潜ることは出来ない。何故ならば
「『強引な盗人』の間違いでしょう?なんにせよ、今日はあなたに勝ち目はありませんよ。怪我をする前に帰ったほうが身の為です」
この館の門番、紅美鈴がいるからだ。頭に大きな中華帽を被り、緑色のチャイナを着こなす中国拳法の達人。ピッタリと肌に吸い付くような服はそのふくよかな体のラインを際立てている。腰まで伸びたロングヘアーを揺らしながら立ちふさがる近接戦闘のスペシャリスト。近接戦闘での能力なら幻想郷最強クラスである。
そう、近接戦闘でなら、だ。
徹底した遠距離戦を仕掛けていけば何とか勝てなくもない。そこに付け込み魔理沙はいつも強行突破してきた。
遠距離対近距離では、どうしても近距離の分が悪い。もちろん、美鈴ほどの達人なら鉄砲の一つや二つどうと言うことは無い。しかし、壁とも思えるほどの大量の魔法弾を避け、接近し攻撃を叩き込まなければならない。だが、もし懐に入られてしまえば遠距離攻撃では絶対に勝ち目は無いだろう。実際、魔理沙も強引ながらも絶対に懐にだけは飛び込まれないよう注意を払い弾幕を張っている。
とりあえずは細心の注意を払いつつ遠距離戦を仕掛ければ何とかならなくも無い。
しかし、今日は何故かいつもに増して自信たっぷりな様子。何か策でもあるのだろうか?
「その様子だとまだ知らないみたいですね。と言っても、私も知ったのは昨日ですし、別に知らなくて恥ずかしいと言うことは無いですし。ま、身をもって体験するといいですよ。ささ、通りたければ私を倒してくださいね」
そう言って美鈴は軽く腰を落とし構えを取る。
知らない?いったい何を知らないと言うのだろうか。ハッタリか?
美鈴の構えからは別段変化は見て取れない。何度もここを通るうちに見慣れたものであり、何か策があるとは思えない。ここは慎重にいくべきかもしれない。だが
「今日は予定が詰まってるんでね!時間を無駄にするわけにはいかないんだ!一気に決めさせてもらうぜ!」
ポケットから取り出した小瓶を上空に放り投げ、美鈴の構えの外側に回りこむように右へ走る。走りながら左手に魔力を込めて腕を振る。左側へ曲線を描きながら当たるように魔力弾を生み出す。流れるような動作で更に正面から美鈴を狙い撃ち、頭上と右と正面の3方向から挟み撃ち、怯んだところを決め技で吹き飛ばす。いつもの手順でいつものように美鈴を倒す予定だった。
「っ!?」
美鈴の正面に魔法弾を撃ちこもうとしたところで猛烈な違和感を感じ後方へ急遽飛び下がった。
なんだ?弾が・・・出てない!?
回りこみながら撃ったはずの魔法弾が出ていない。撃った手ごたえはあったのに、飛んでいった様子は無い。まるで、撃ち放った瞬間に掻き消えてしまったかのようだ。
後方に着地と同時に最初に上空に放り投げた小瓶が地面に落ちた。本来、この小瓶にも特殊な魔法を込めており空中で爆発、四散し上空から美鈴に魔法弾の雨が降り注ぐ予定だった。しかしその瓶は空中でその魔法を発動させることなく重力に従い放物線を描いて落ちるだけだった。
地面に落ちた瓶は『ボンッ』と空気が爆ぜるような音と共に爆発した。美鈴の足元で爆発した瓶は激しい砂埃を巻き上げ二人の姿を覆い隠す。
魔法弾が出ない。しかし、瓶は爆発した。魔法を打ち消す結界か何かが張ってあるのかと思ったが、空中で四散することは無くとも爆発はする。つまり、直接的な方法であれば同等の効果は発揮できるということか?飛び道具系を無効化する罠、それが美鈴がさっき見せた余裕の表情の正体?
「さて、魔理沙さんのターンはこれで終了ですか?なら、次は私の番ですね」
砂埃で遮られた視界の向こうから美鈴の声が聞こえた。と同時に、掻き分けるように砂埃の中から美鈴が躍り出る。
「くそっ!」
毒づきながら思考を巡らせる。
設置系のトラップなら範囲は限られているはず。パチュリーならかなりの広範囲になりそうだが、いつ来るかわからない外敵に対しての罠をパチュリー自信が張るとは思えない。この門番にも扱える程度のものだとすれば・・・大体二十~三十ってところか?
詰め寄る美鈴。魔理沙との距離は3歩といったところ。近距離での戦闘は避けなければならない。近距離で戦えばこちらに勝ち目などないのだから。
しかし、美鈴が先に行動を起こした。一瞬体を縮めたかと思うと、全身をバネの様に弾けさせ弾丸の様なスピードで突きを叩き込んでくる。
魔理沙の速度では避けることは出来ない。あの拳が真っ直ぐに突っ込めば鳩尾辺りにめり込み、3日くらいはご飯が美味しく食べれなくなってしまうことは間違いない。
魔理沙は咄嗟に後方へ。突進攻撃とはそれほど選択肢が多いわけではない。スピードを生かした攻撃は必然、直線的になり易い。美鈴の攻撃も同じだ。一直線に懐へと突っ込んでくる。だからといって避けるのが簡単と言うわけでもない。美鈴の攻撃スピードは尋常ではない。それに搦め手の多い中国拳法。避けても追撃が来る可能性が高い。
魔理沙は後方へ跳んだが、当然だがバックステップよりも突進攻撃の方がスピードが速い。当然魔理沙の腹部へ吸い込まれるように美鈴の放った拳が突き刺さった。
「むっ!」
しかし、美鈴の攻撃は魔理沙が差し込んだ掌によって遮られていた。
避けたり反撃したりは難しいが、的を絞って防御に徹すればならなんとかなる。即ち、顎、咽喉、鳩尾辺りの急所だ。このあと連打を叩き込まれたりすればまた状況は変わるのだが、魔理沙は美鈴の攻撃の威力をそのまま受け止め、後方へ吹き飛んでいく。
距離を取ることに成功した魔理沙はすぐさま次の行動を開始する。
「距離を稼いだところでどうにもなりませんよ?」
今の美鈴の反応、離れられるとまずくて挑発しているのか。真偽は定かではないが、まずは行動してみなくてははっきりしない。
吹き飛ばされた勢いのままさらに2回ほど後ろに飛ぶ。十分に距離を稼いだところで魔理沙は箒に跨り上空へ飛び上がる。
さっきの魔法を無効化するトラップが、一定空間内の魔法を無効化する。なんて超万能な性能ではないはず。たぶん、一定空間内で発動する魔法をキャンセルする。程度のものだろう。無効化できるのだったら美鈴はそのトラップ内にいれば無敵。追いかけてきたということは、外から攻撃されればひとたまりも無いのだろう。
「それなら、罠の範囲外から全部まとめて焼き払えば問題無し!」
ニヤリと、危ない笑みを浮かべ、魔理沙はポケットに手を突っ込んだ。
0‐0
「号外!号外だよー!また妖怪、八雲紫主催の幻想郷の大イベントが起こるよ!今度は合戦!玉取り合戦だ!妖怪達のガチンコ対決!巫女と魔女の参戦も決定!幻想郷最強を決める戦いだよ!なんと優勝賞品は何でも願いが叶っちゃうらしい!さぁさぁ!詳しくはこちらを読んでみてくださいな!」
鴉天狗の射命丸文が即興で書き上げた記事を村角で配っている。
「文さま、誰も聞いてないし、受け取ってくれませんよぉ」
「椛、それはあなたの努力が足りないからですよ。こんな面白そうなイベント、興味が無いわけないじゃないですか」
確かに幻想郷最強を決める戦いだなんて滅多にお目にかかれないイベントであることは間違いないだろう。しかしそれは、
「妖怪だったら気になるところですけど、村の人にとっては結構どうでもいいことだと思うんですよぅ。妖怪の最強が決まったからって、人間には何の関係もないことですし。どうせなら何か利益がでることじゃないと。例えば、博打とか。誰が1位になるかとか賭けたりしたらいいんじゃないですか?……なんて、文さまの新聞はそういうのじゃないですもんね」
「椛!」
勢いよく振り返った射命丸は椛の両肩をがっしりと掴んだ。
「ひゃい!」
出しゃばってしまっただろうか?でも、どうせなら文さまの新聞を多くの人に読んでもらいたい。だからちょっと怒られても良いから文さまの役に立ちたいな。でも、やっぱり怒られるのは…
「ナイスアイディアです!早速今までの資料を元に優勝候補の割り出しとインタビューを行わねば!今から作れば……明日の朝までには何とかなりますね!行きますよ椛!」
怒られるどころか頭をくしゃくしゃに撫でられてしまった。飛び立つ射命丸の後ろを尻尾をブンブンと振り回しながら急いで追いかけた。
「文さまぁ!待ってくださいよぉ!」
ガチンコ対決!幻想郷最強決定のルール
一つ、武器の使用を許可
一つ、魔法の使用を許可
一つ、妖怪、人間、平等に参加可能
一つ、参加者以外には決して手を出さない
一つ、一度戦闘不能になった場合、続行は不可。こちらで回収、治療を行い、観戦席である博麗神社にて大会終了まで拘束
以上のルールを守り、幻想郷最強を決定いたします。
尚、優勝賞品=勝利条件であり、願いを叶えた者が優勝です。
知と力、両方を存分に奮い、最強の称号を手に入れてください。
正午からの開始となり、開始後は優勝者が決まるまで際限なく続けますので、準備を怠らないようにしてください。
「号外!号外だよー!また妖怪、八雲紫主催の幻想郷の大イベントが起こるよ!今度は合戦!玉取り合戦だ!妖怪達のガチンコ対決!巫女と魔女の参戦も決定!幻想郷最強を決める戦いだよ!なんと優勝賞品は何でも願いが叶っちゃうらしい!さぁさぁ!詳しくはこちらを読んでみてくださいな!」
鴉天狗の射命丸文が即興で書き上げた記事を村角で配っている。
「文さま、誰も聞いてないし、受け取ってくれませんよぉ」
「椛、それはあなたの努力が足りないからですよ。こんな面白そうなイベント、興味が無いわけないじゃないですか」
確かに幻想郷最強を決める戦いだなんて滅多にお目にかかれないイベントであることは間違いないだろう。しかしそれは、
「妖怪だったら気になるところですけど、村の人にとっては結構どうでもいいことだと思うんですよぅ。妖怪の最強が決まったからって、人間には何の関係もないことですし。どうせなら何か利益がでることじゃないと。例えば、博打とか。誰が1位になるかとか賭けたりしたらいいんじゃないですか?……なんて、文さまの新聞はそういうのじゃないですもんね」
「椛!」
勢いよく振り返った射命丸は椛の両肩をがっしりと掴んだ。
「ひゃい!」
出しゃばってしまっただろうか?でも、どうせなら文さまの新聞を多くの人に読んでもらいたい。だからちょっと怒られても良いから文さまの役に立ちたいな。でも、やっぱり怒られるのは…
「ナイスアイディアです!早速今までの資料を元に優勝候補の割り出しとインタビューを行わねば!今から作れば……明日の朝までには何とかなりますね!行きますよ椛!」
怒られるどころか頭をくしゃくしゃに撫でられてしまった。飛び立つ射命丸の後ろを尻尾をブンブンと振り回しながら急いで追いかけた。
「文さまぁ!待ってくださいよぉ!」
ガチンコ対決!幻想郷最強決定のルール
一つ、武器の使用を許可
一つ、魔法の使用を許可
一つ、妖怪、人間、平等に参加可能
一つ、参加者以外には決して手を出さない
一つ、一度戦闘不能になった場合、続行は不可。こちらで回収、治療を行い、観戦席である博麗神社にて大会終了まで拘束
以上のルールを守り、幻想郷最強を決定いたします。
尚、優勝賞品=勝利条件であり、願いを叶えた者が優勝です。
知と力、両方を存分に奮い、最強の称号を手に入れてください。
正午からの開始となり、開始後は優勝者が決まるまで際限なく続けますので、準備を怠らないようにしてください。