壱の弐 「中国と呼ばないで」
ポケットから取り出したのは六角形の輪。名は八卦炉。魔理沙愛用の魔法媒体だ。
大きさは手の平にすっぽりと収まる程度で、『炉』という名の付くとおりこの八卦炉は火を操ることが可能で、じっくりことこと煮込む程度の火力から数秒で豚も丸焼きにする程度の火力まで調整可能。この八卦炉を媒体として魔理沙のとっておきの魔法、といっても、毎回使っているので取って置きと言うほど出し惜しみしていないのだが、今回はいつもよりさらに火力を上げる為魔力を多めに込める。
今回は距離、範囲どっちも広い。手加減しては威力がしっかりと通らないだろう。まぁ、美鈴だしそう簡単に死にはしないだろう。門の前にクレーターができるくらいのはずだ。
上空は風も無く穏やか。箒に跨って浮いているが上体も安定している。突き出した手の平に八卦炉を構え、魔力を込める。今まで散々繰り返してきた魔法。何度も危機を脱してきた魔法を、改めて意識して発動させる。全身の内側からにじみ出る魔力と大気から感じ取れる魔力を練り合わせ、手に集中させていく。爆発寸前まで八卦炉に魔力を込めてゆくと、淡い橙の光が八卦炉を包んでいく。
「行くぜ!全力全壊!マスタァァァァスパァァァァァクッッ!」
破裂寸前の風船の様に膨らんだ魔力を目標に向かって押し出すように放出する。出口を見つけた魔力の奔流は勢い良く吹き出し、そして霧散した。
「・・・・・・は?まさか、これだけ距離を置いたのにまだ範囲内だっていうのか!?」
「ぶっぶー。残念、それは正解じゃありません」
驚愕する魔理沙の耳に美鈴の声が聞こえた。方向は真下。門番のくせに門から離れ魔理沙を追いかけてきて真下から強襲してきたのだ。
慌てて距離を取ろうと箒を操作しようとするがすでに遅く、魔理沙の腹部に吸い込まれるように拳が突き刺さった。
「ぐぇ!」
咄嗟に腰を捻って直撃は避けたが脇腹を抉り取られるような衝撃に肺の空気を吐き出した。
「むっ、もう勝ち目は無いんですから、無駄に足掻くと苦しいだけです、よ!」
言いながら蹴りを放つ。鋭い弧を描きながら顔面に伸びてくる蹴りを両腕でガードする。
「乙女の顔面を狙うなよな。あと生憎私は無駄な足掻きってやつが大好きでね!」
ガードした両腕が痺れているが、無理やり箒を握る手に力を込める。美鈴は続けて拳を打ち下ろそうと振りかぶっている。今なら攻撃の間に割り込めるかもしれない。美鈴の脇腹に向かって箒を叩きつける。しかし、その振りかぶる動きは囮。来るとわかっている攻撃ほど受けやすいものは無い。打ち込まされてしまったとわかったときには既に遅く、振りかぶっていた腕を落として肘で箒を叩き折る。さらに拳が振り下ろされ、魔理沙の体は地面に叩き落される。
「ぶっ!」
無理な体制から打ち込んでしまったので避けることも叶わずクリーンヒット。空中から地面に叩き落されれば骨の2~3本は覚悟しなければならないが、何故か茂みの中に落とされたのでそれほどダメージにはなっていない。
「こっちは全力だってのに、あっちは手加減してくれてるってわけか」
すげームカつく。しかし、これだけ実力差があれば仕方がないことだろう。どうやったらここを突破できるのだろうか。魔法が出ないだけでこんなにも勝負にならないとは。というか、何故魔法が出ないのだろうか?
改めて考え直す。最初はなんらかのトラップ系かと思ったがそうじゃないのかもしれない。なら私自信に問題が?いや、浮遊魔法は問題なく発動しているし、魔法も発動までの手順はしっかりと出来ていた。発動の瞬間になって無効化されたということはやはり外部からの何らかの干渉があるはず。トラップ系でないというのならいったい・・・
「諦めは付きましたか?魔理沙さん。いくら足掻いたところでここから先には通させませんよ」
茂みから身を起こすと既に美鈴が近くに立っていた。普通に立っているだけなのに、突破口が見つからない。隙がなさすぎる。しかし、諦めるのは性にあわない。何とかしてここを通れないものか・・・ん?
魔理沙は何かに気がつきニヤリと口元を歪めるが、すぐにニカッと笑い降参宣言をした。
「負けだ負けだ。今回は諦めるぜ。美鈴と殴り合いだなんて、鬼でもなけりゃ務まらないぜ」
「え?ホントに?本当に諦めてくれるんですか!?あのしつこいことで有名な魔理沙さんが!?」
何か引っかかる言い方だが、冷静さを欠いてはいけない。魔理沙はハハハと笑いながら踵を返す。
「じゃあ私はもう行くぜ。じゃ!」
自然に。あくまでも自然に全力疾走。
「遂に!遂に魔理沙さんを撃退することに成功!やった!これで咲夜さんにご褒美を貰える!毎日毎日魔理沙さんの進入を許すたびに怒られ、蔑まされ、まるで汚いものを見るような目で虐げられてきた日々も今日でお別れよ!」
天を仰ぎながら喜びの涙を流す美鈴。なんか結構不憫な思いをしてきたらしい。まぁ、だからといってやめたりはしないのだが。
「あぁ!早く咲夜さんに褒められたい!ナデナデしてもらいたい!ハグしてもらいたい!早く報告に行かなくっちゃ!えヘヘヘ、私、この報告が終わったら咲夜さんとニャンニャンするんだ・・・」
眩いばかりの笑顔で魔理沙の背中を見送った後で振り返り紅魔館に戻ろうとしたところで足を止める。
「・・・あれ?」
美鈴の視線の先にあるはずのものがない。
「・・・え?」
180度回転し、魔理沙が走り去った方角を見る。
「・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「へへ、運が私の味方をしたみたいだな。悪いな美鈴」
後方から轟く美鈴の絶叫を聞きながら魔理沙は紅魔館に向かって走っていた。
どうやら空中で殴り合っていた際に二人の位置が入れ代わっていた様で、それにいち早く気がついた魔理沙は美鈴にそれを悟られない様に走り去った訳だ。
「まぁ、こんな小細工も何もあったもんじゃないからすぐに追いかけてくるとは思うけど・・・ってもう走ってきてるな」
後方から一歩一歩が地面を割るんじゃないかというほどの力で地面を蹴り、地響きを響かせながら美鈴が追いかけてきた。
「待って!待ってくださいぃぃぃぃ!これがホントの試合に勝って勝負に負けたってやつですか!?っていうかこれじゃ咲夜さんに褒められるどころかお仕置きですよ!?大体、正面から堂々とじゃなかったんですか!?どうして背中を見せて走っているんですか!」
「それはそれ、これはこれ!臨機応変ってやつだぜ!」
恐怖なのか悲しみなのか、涙をボロボロ流しながら走る美鈴のスピードは半端じゃない。だがスタートで大分差があった分、魔理沙の方が早く門まで辿り着くはず。門まで辿りつけばあとはあの広い庭で撒いて屋敷に侵入するだけだ。というか、妨害してくるのは大概門番だけなので中に入ってしまえばなんとかなるはず。
美鈴の速度も速いが魔理沙も負けてはいない。伊達に毎日森の中を歩き回っているだけはある。
ゴールは目前まで迫っていた。しかし、美鈴ももう背後まで迫ってきていた。
「ふふふ!追いかけっこは終わりですよ魔理沙さん!よく私をここまで追い詰めましたね!精神的に!しかし、門を開けるには私の持っている鍵が必要!いつも飛んで越えていくので知らなかったかもしれませんがこれで万事休すです!箒は先ほど叩き折らせてもらいましたからね!あなたにこの門を越える術はありません!」
3メートルはある分厚い鉄板の様な門が魔理沙の行く手を阻む。確かに鍵が必要だとは知らなかった。門があって門番を倒してもそのまま飛び越えていっているのを思い出すと、なんだかこの門が不憫に思えてくるが今はそんなことに思いを馳せている場合でもない。だが、考えたからといってこの門を一瞬でどうにかできるわけが無い。ならっ!
「どっりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
駆け上がった。
1歩目、門の右に置いてあった木箱に足を掛け
2歩目、門の右の柱に足を掛け
3歩目、門を蹴り、門の上部に手を掛ける
4歩目、門に掛けた手を離さないように左の柱を蹴り、背面跳びの様な姿勢で門を飛び越える。
「そ、そんな馬鹿な!」
美鈴はその姿を呆然と見上げるしかなかった。
「私に不可能はないんだぜ!」
空中でガッツポーズを決めながら自然落下に身を任せ魔理沙が門の内側へと落ちていく。
しかし、その姿が見えなくなる途中、突如魔理沙の姿が消えた。
「へ?」
いや、消えたと言うか、何か空間に飲み込まれたような?
急ぎ門の鍵を開けて中を確認するがやはり魔理沙が中に着地した形跡はない。どうやら何者かが魔理沙を連れ去ったようだ。
「ということは、結果的には魔理沙さんは門を突破することはできなかったということですね!私の勝利です!よし、これで咲夜さんに怒られないで済む!」
よし、と小さくガッツポーズを取る。結果的には敷地内には踏み込まれていないがほぼ突破されたも同然なので、報告はしないでおこう。
「あら美鈴、だれに怒られないで済むのかしら?」
ガッツポーズのまま美鈴の顔がサーっと青くなる。
「あ、あれ?咲夜さん?何時からそこに?侵入者は無事撃退しました・・・よ?」
顔を上げればいつの間にか紅魔館で働く者の長である咲夜が仁王立ちでそこにいた。
「何時から?そうねちょうど魔理沙が飛び込んできて消えた辺りかしら?」
ニコッと咲夜さんが微笑みながら「だから何?」という顔をした。
「今日は無事に魔理沙の進入を阻止しましたよ?ホントですよ?紅魔館の土を踏ませてないですから。だから、お仕置きとかじゃなくて、どちらかと言えばご褒美をもらえるんですよ・・・ね?」
あたふたと美鈴は身振り手振りを加えながら事情を説明した。が、咲夜さんの返事は短いものだった。
「それ、無理」
途端に美鈴の取り繕うような笑顔も凍りつく。
「この状況下においては私は最強だと、あなた自分でそう言ったのよ?それが何?門番が門を飛び越えられるのをただ見上げていただけって・・・ハッ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
美鈴は恐怖で泣きながら壊れた人形のように同じ言葉をただ繰り返す。
「とりあえず残業168時間追加。あと、差し入れも当分無し。寝ているのを見つける毎に24時間残業増やすから。それと改善されるまではあなたの名前は中国よ。反論は認めないわ。以上」
「ひぃ・・・残業でもなんでもしますからその呼び方だけは・・・名前で呼んで・・・私には名前があるのに、どうして名前で呼んでくれないんですか・・・どうして・・・どうして・・・」
何かおかしなトラウマでも発生しているのか虚ろな眼で何かブツブツと美鈴・・・中国が言っている。
「名前で呼んで欲しければしっかりと仕事なさい。ほら、早く戻る!」
とぼとぼと中国が定位置に戻ったのを確認してから咲夜も仕事に戻るため屋敷の中へと戻っていく。
「あの妖怪が動いたってことは、何かする気かしらね。まぁ、お嬢様に危害が及ばないのならなんでもいいんですけど」
屋敷の中から咲夜を呼ぶ主の声がした。
「はい!今行きます!少々お待ちを!」
つづく
ポケットから取り出したのは六角形の輪。名は八卦炉。魔理沙愛用の魔法媒体だ。
大きさは手の平にすっぽりと収まる程度で、『炉』という名の付くとおりこの八卦炉は火を操ることが可能で、じっくりことこと煮込む程度の火力から数秒で豚も丸焼きにする程度の火力まで調整可能。この八卦炉を媒体として魔理沙のとっておきの魔法、といっても、毎回使っているので取って置きと言うほど出し惜しみしていないのだが、今回はいつもよりさらに火力を上げる為魔力を多めに込める。
今回は距離、範囲どっちも広い。手加減しては威力がしっかりと通らないだろう。まぁ、美鈴だしそう簡単に死にはしないだろう。門の前にクレーターができるくらいのはずだ。
上空は風も無く穏やか。箒に跨って浮いているが上体も安定している。突き出した手の平に八卦炉を構え、魔力を込める。今まで散々繰り返してきた魔法。何度も危機を脱してきた魔法を、改めて意識して発動させる。全身の内側からにじみ出る魔力と大気から感じ取れる魔力を練り合わせ、手に集中させていく。爆発寸前まで八卦炉に魔力を込めてゆくと、淡い橙の光が八卦炉を包んでいく。
「行くぜ!全力全壊!マスタァァァァスパァァァァァクッッ!」
破裂寸前の風船の様に膨らんだ魔力を目標に向かって押し出すように放出する。出口を見つけた魔力の奔流は勢い良く吹き出し、そして霧散した。
「・・・・・・は?まさか、これだけ距離を置いたのにまだ範囲内だっていうのか!?」
「ぶっぶー。残念、それは正解じゃありません」
驚愕する魔理沙の耳に美鈴の声が聞こえた。方向は真下。門番のくせに門から離れ魔理沙を追いかけてきて真下から強襲してきたのだ。
慌てて距離を取ろうと箒を操作しようとするがすでに遅く、魔理沙の腹部に吸い込まれるように拳が突き刺さった。
「ぐぇ!」
咄嗟に腰を捻って直撃は避けたが脇腹を抉り取られるような衝撃に肺の空気を吐き出した。
「むっ、もう勝ち目は無いんですから、無駄に足掻くと苦しいだけです、よ!」
言いながら蹴りを放つ。鋭い弧を描きながら顔面に伸びてくる蹴りを両腕でガードする。
「乙女の顔面を狙うなよな。あと生憎私は無駄な足掻きってやつが大好きでね!」
ガードした両腕が痺れているが、無理やり箒を握る手に力を込める。美鈴は続けて拳を打ち下ろそうと振りかぶっている。今なら攻撃の間に割り込めるかもしれない。美鈴の脇腹に向かって箒を叩きつける。しかし、その振りかぶる動きは囮。来るとわかっている攻撃ほど受けやすいものは無い。打ち込まされてしまったとわかったときには既に遅く、振りかぶっていた腕を落として肘で箒を叩き折る。さらに拳が振り下ろされ、魔理沙の体は地面に叩き落される。
「ぶっ!」
無理な体制から打ち込んでしまったので避けることも叶わずクリーンヒット。空中から地面に叩き落されれば骨の2~3本は覚悟しなければならないが、何故か茂みの中に落とされたのでそれほどダメージにはなっていない。
「こっちは全力だってのに、あっちは手加減してくれてるってわけか」
すげームカつく。しかし、これだけ実力差があれば仕方がないことだろう。どうやったらここを突破できるのだろうか。魔法が出ないだけでこんなにも勝負にならないとは。というか、何故魔法が出ないのだろうか?
改めて考え直す。最初はなんらかのトラップ系かと思ったがそうじゃないのかもしれない。なら私自信に問題が?いや、浮遊魔法は問題なく発動しているし、魔法も発動までの手順はしっかりと出来ていた。発動の瞬間になって無効化されたということはやはり外部からの何らかの干渉があるはず。トラップ系でないというのならいったい・・・
「諦めは付きましたか?魔理沙さん。いくら足掻いたところでここから先には通させませんよ」
茂みから身を起こすと既に美鈴が近くに立っていた。普通に立っているだけなのに、突破口が見つからない。隙がなさすぎる。しかし、諦めるのは性にあわない。何とかしてここを通れないものか・・・ん?
魔理沙は何かに気がつきニヤリと口元を歪めるが、すぐにニカッと笑い降参宣言をした。
「負けだ負けだ。今回は諦めるぜ。美鈴と殴り合いだなんて、鬼でもなけりゃ務まらないぜ」
「え?ホントに?本当に諦めてくれるんですか!?あのしつこいことで有名な魔理沙さんが!?」
何か引っかかる言い方だが、冷静さを欠いてはいけない。魔理沙はハハハと笑いながら踵を返す。
「じゃあ私はもう行くぜ。じゃ!」
自然に。あくまでも自然に全力疾走。
「遂に!遂に魔理沙さんを撃退することに成功!やった!これで咲夜さんにご褒美を貰える!毎日毎日魔理沙さんの進入を許すたびに怒られ、蔑まされ、まるで汚いものを見るような目で虐げられてきた日々も今日でお別れよ!」
天を仰ぎながら喜びの涙を流す美鈴。なんか結構不憫な思いをしてきたらしい。まぁ、だからといってやめたりはしないのだが。
「あぁ!早く咲夜さんに褒められたい!ナデナデしてもらいたい!ハグしてもらいたい!早く報告に行かなくっちゃ!えヘヘヘ、私、この報告が終わったら咲夜さんとニャンニャンするんだ・・・」
眩いばかりの笑顔で魔理沙の背中を見送った後で振り返り紅魔館に戻ろうとしたところで足を止める。
「・・・あれ?」
美鈴の視線の先にあるはずのものがない。
「・・・え?」
180度回転し、魔理沙が走り去った方角を見る。
「・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「へへ、運が私の味方をしたみたいだな。悪いな美鈴」
後方から轟く美鈴の絶叫を聞きながら魔理沙は紅魔館に向かって走っていた。
どうやら空中で殴り合っていた際に二人の位置が入れ代わっていた様で、それにいち早く気がついた魔理沙は美鈴にそれを悟られない様に走り去った訳だ。
「まぁ、こんな小細工も何もあったもんじゃないからすぐに追いかけてくるとは思うけど・・・ってもう走ってきてるな」
後方から一歩一歩が地面を割るんじゃないかというほどの力で地面を蹴り、地響きを響かせながら美鈴が追いかけてきた。
「待って!待ってくださいぃぃぃぃ!これがホントの試合に勝って勝負に負けたってやつですか!?っていうかこれじゃ咲夜さんに褒められるどころかお仕置きですよ!?大体、正面から堂々とじゃなかったんですか!?どうして背中を見せて走っているんですか!」
「それはそれ、これはこれ!臨機応変ってやつだぜ!」
恐怖なのか悲しみなのか、涙をボロボロ流しながら走る美鈴のスピードは半端じゃない。だがスタートで大分差があった分、魔理沙の方が早く門まで辿り着くはず。門まで辿りつけばあとはあの広い庭で撒いて屋敷に侵入するだけだ。というか、妨害してくるのは大概門番だけなので中に入ってしまえばなんとかなるはず。
美鈴の速度も速いが魔理沙も負けてはいない。伊達に毎日森の中を歩き回っているだけはある。
ゴールは目前まで迫っていた。しかし、美鈴ももう背後まで迫ってきていた。
「ふふふ!追いかけっこは終わりですよ魔理沙さん!よく私をここまで追い詰めましたね!精神的に!しかし、門を開けるには私の持っている鍵が必要!いつも飛んで越えていくので知らなかったかもしれませんがこれで万事休すです!箒は先ほど叩き折らせてもらいましたからね!あなたにこの門を越える術はありません!」
3メートルはある分厚い鉄板の様な門が魔理沙の行く手を阻む。確かに鍵が必要だとは知らなかった。門があって門番を倒してもそのまま飛び越えていっているのを思い出すと、なんだかこの門が不憫に思えてくるが今はそんなことに思いを馳せている場合でもない。だが、考えたからといってこの門を一瞬でどうにかできるわけが無い。ならっ!
「どっりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
駆け上がった。
1歩目、門の右に置いてあった木箱に足を掛け
2歩目、門の右の柱に足を掛け
3歩目、門を蹴り、門の上部に手を掛ける
4歩目、門に掛けた手を離さないように左の柱を蹴り、背面跳びの様な姿勢で門を飛び越える。
「そ、そんな馬鹿な!」
美鈴はその姿を呆然と見上げるしかなかった。
「私に不可能はないんだぜ!」
空中でガッツポーズを決めながら自然落下に身を任せ魔理沙が門の内側へと落ちていく。
しかし、その姿が見えなくなる途中、突如魔理沙の姿が消えた。
「へ?」
いや、消えたと言うか、何か空間に飲み込まれたような?
急ぎ門の鍵を開けて中を確認するがやはり魔理沙が中に着地した形跡はない。どうやら何者かが魔理沙を連れ去ったようだ。
「ということは、結果的には魔理沙さんは門を突破することはできなかったということですね!私の勝利です!よし、これで咲夜さんに怒られないで済む!」
よし、と小さくガッツポーズを取る。結果的には敷地内には踏み込まれていないがほぼ突破されたも同然なので、報告はしないでおこう。
「あら美鈴、だれに怒られないで済むのかしら?」
ガッツポーズのまま美鈴の顔がサーっと青くなる。
「あ、あれ?咲夜さん?何時からそこに?侵入者は無事撃退しました・・・よ?」
顔を上げればいつの間にか紅魔館で働く者の長である咲夜が仁王立ちでそこにいた。
「何時から?そうねちょうど魔理沙が飛び込んできて消えた辺りかしら?」
ニコッと咲夜さんが微笑みながら「だから何?」という顔をした。
「今日は無事に魔理沙の進入を阻止しましたよ?ホントですよ?紅魔館の土を踏ませてないですから。だから、お仕置きとかじゃなくて、どちらかと言えばご褒美をもらえるんですよ・・・ね?」
あたふたと美鈴は身振り手振りを加えながら事情を説明した。が、咲夜さんの返事は短いものだった。
「それ、無理」
途端に美鈴の取り繕うような笑顔も凍りつく。
「この状況下においては私は最強だと、あなた自分でそう言ったのよ?それが何?門番が門を飛び越えられるのをただ見上げていただけって・・・ハッ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
美鈴は恐怖で泣きながら壊れた人形のように同じ言葉をただ繰り返す。
「とりあえず残業168時間追加。あと、差し入れも当分無し。寝ているのを見つける毎に24時間残業増やすから。それと改善されるまではあなたの名前は中国よ。反論は認めないわ。以上」
「ひぃ・・・残業でもなんでもしますからその呼び方だけは・・・名前で呼んで・・・私には名前があるのに、どうして名前で呼んでくれないんですか・・・どうして・・・どうして・・・」
何かおかしなトラウマでも発生しているのか虚ろな眼で何かブツブツと美鈴・・・中国が言っている。
「名前で呼んで欲しければしっかりと仕事なさい。ほら、早く戻る!」
とぼとぼと中国が定位置に戻ったのを確認してから咲夜も仕事に戻るため屋敷の中へと戻っていく。
「あの妖怪が動いたってことは、何かする気かしらね。まぁ、お嬢様に危害が及ばないのならなんでもいいんですけど」
屋敷の中から咲夜を呼ぶ主の声がした。
「はい!今行きます!少々お待ちを!」
つづく
ぶっちゃけタイトル適当です。むしろタイトルいるのかこれ?って状態。
あと、誤字脱字多いかも。不自然な部分もあるかもしれない。
2回ほど読み返したけれど頭が痛くてしっかり把握できてないかもしれない。
とりあえず鳴海先生からわかりにくいと言われました。
そのうち壱の壱に修正いれるかもね。
とりあえず説明しておくと、0-0は時間軸的に言うと、壱の壱より後です。壱の壱に1日遡るって書いてあるから大丈夫だと思うけど、気づかなかった人のために。
次書けば壱の参が終われば弐の壱にいけるかもしれない。
とりあえず次回更新はいつだろうね。早めにしたいです。
でわでわ
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