「ぅあー…暑い。死ぬ……。」
ただでさえ真上からの日差しで暑いというのに湖からの照り返しで2倍は暑い。
夏が終わったとはいえ時期はまだまだ秋と呼ぶには程遠い。太陽は近いし、今日は雲も無い。
湖面からは熱された水が水蒸気となって立ち昇り、不愉快指数は赤丸急上昇中。とどまることを知らないその湿度で湖上空は一種のサウナと化していた。
「…うぅ……頭がフラフラしてきた……。」
そんな天然サウナをフラフラとふらつきながら飛ぶのは博麗霊夢。空飛ぶ幻想郷の巫女だ。真っ赤な袴に真っ白な上着。ただし上着は肩から脇まで大きくくり貫かれた形になっている。頭には真っ赤なリボンをつけており、上から赤、白、赤と紅白の出で立ちだ。
一点、違う点を上げるとすればそれは真っ黒な髪。リボンで縛ってあるので肩に掛かる程度の長さに見えるが、リボンを解けば流れるような漆黒の髪が現れる。
しかし現在は服も髪も汗でベトベト。不愉快指数が増す要因の一つと成り下がっていた。
「これは…遠回りでも迂回すればよかったわ……このままじゃ、命が危ないわ……。」
そんな空飛ぶ巫女も暑さにはどうすることもできず、犬のように舌を出し滝のような汗を拭いながら遥か前方に見える陽炎に揺れる紅魔館を見つめていた。
霊夢が向かう先は紅魔館。あそこに住むメイドに呼び出しを食らったのだ。先日食料を分けてもらった借りがあるので断ることができなかった。
「あ~、もう1度霧で覆ってもらおうかしら?少しは涼しくなるだろうし……。」
そんな愚痴をもらしていると視界の端に青い影を捉えた。
「ん?あれは……チルノかな?」
この辺りで青いヤツなんて十中八九チルノだろう。
「そうだ!」
チルノと言えば氷の妖精。年中冷気を放っているはず。つまり、
「お持ち帰りしよう!」
夜寝苦しい時もチルノがいれば大助かり。多少うるさいかもしれないが、まぁ袋にでもつめて抱き枕にすれば大丈夫だろう。熱で頭がぼーっとしてる割には良い考えが出たものだ。
紅魔館へ向かうコースを外れ、チルノらしき人影のある湖の畔へと向かう。
距離はそう遠くはなく、数秒も飛べばチルノの姿をはっきりと捉えられる距離まできていた。
チルノはどうやら大の字で寝そべっているようで、こちらに気づいた様子は無い。この暑さで氷の妖精もバテてしまっているのだろうか?
さらに数秒、チルノの姿は小指と同じくらいのサイズになっていた。しかし未だにこちらに気づく様子は無い。さらに近づいてから気が付いたが、どうやら目を閉じている様だ。昼寝中だろうか?この暑い中を?
少し心配になってきた。チルノは身動ぎ一つせず地面に仰向けに横たわっている。顔が青白いのはいつも通りだとしても、嫌な感じがする。
「まずいわね……。私って嫌な予感ばっかり当たるのよね…。」
急ぎ地面に降り立つとチルノの傍へ駆け寄る。
「チルノ!チルノー!」
名前を呼びながら頬を叩く。頬を叩いてもチルノは目を覚ます様子は無い。呼吸を確認すると一応浅いが呼吸はある。っていうか妖精もちゃんと呼吸するのね。
チルノの頬はビショビショになっているが、汗ではなく少し溶けてしまっているようだ。どうやらこの状態になってから多少時間が経過しているらしい。
「チルノ!おーいチルノ!バカチルノ!起きなさいバカ!バカ⑨!」
馬鹿という単語に反応してチルノがうめき声を上げた。さらに数回ペチペチと頬を叩くとチルノが苦しそうに眉を寄せ、硬く閉じられていた双眸が開かれた。
「…ぁ……ぅ?…か…じゃ………ない……。」
もはや馬鹿を否定するのは本能のようなものらしい。チルノの焦点の定まらない視線に割り込むようにその顔を覗き込む。
「う……ん…?だ…れ…?」
額に手を当てて頭を振りながら上半身を起こす。頭が痛むのかしかめっ面でうめき声を上げている。
「大丈夫?あんた、ここに倒れてたのよ。何かあったの?」
「うー、わかんない……なんにも思い出せない……。」
どうやら怪我はしていないようだ。すると攻撃を受けて倒れたというわけではないようだ。
「そうか、思い出せないか…。うーん、まぁ、実害は出てないみたいだし、とりあえず私はもう行くけどどこか痛むなら後でウチにいらっしゃいな。手当てくらいしてあげるわよ。といっても、妖精だから大丈夫なのかな?とりあえずまずは日陰で体を休めなさい。」
安心した。嫌な予感はどうやら外れてくれたようだ。このまま幻想郷連続襲撃事件とかに発展していたらどうしようかと思った。
「じゃ、私は行くわね。」
そういえばすっかり汗が引いている。チルノの冷気か、それとも肝が冷えたせいか、どちらのしろ館までは何とか辿り着けそうだ。
霊夢は再び空に向かい意識を集中し、
「待って!」
たところで後ろから服の裾を思いっきり引っ張られた。
「……何よ?」
嫌な予感がする。きっとさっきのもコレだったのだろう。チルノの次の言葉を聞くために、振り返る。
「ここ、どこ?あたいの名前、知ってるの?っていうかあんた誰?」
「……は?」
どうしてこう私はいつもいつも貧乏くじばかり引いてしまうのだろうか?貧乏だから?冗談じゃない。貧乏ではなく慎ましい生活を送っているだけで決して貧乏なわけではない。確かに一日三食食べられない日もあったりするが、別に貧乏じゃない。そう、貧乏じゃないのよ。大体、貧乏だからって不幸になるわけじゃない。お金があったって不幸なヤツはいっぱいいる。それどころか災いの種になることの方が多い。それに比べ私の慎ましい生活の中で災いの種になるようなものがあるだろうか?いや、ない。なのに周りが私に不幸を押し付けているんだ。そうだ、魔理沙や、紫や、レミリアとか、そうだ私には不幸になる要素なんてないんだ。そう、私は幸せになれるはずなんだ。そう、幸せになればご飯も毎日三食――
「ふふっ…ふふふふ……。」
「……ねぇ?」
チルノの声で我に返る。そう、降りかかる不幸は幸せになるための下積み。善行を積み、私は幸せになるのだ。そう自分に言い聞かせチルノに向き合う。
なんにせよ嫌な予感は大的中してしまった様で、チルノはどうやら何らかの原因で記憶喪失となってしまったようだ。チルノがこんな気の利いた冗談を言うわけがないし、そもそもそんな考えにいたらないだろう。しかし、一応確認をしないといけない。誰かの入れ知恵ということも考えられる。
「それ、本気で言ってるの?チルノ。」
「チルノ?それがあたいの名前か?ふーん、チルノ……カッコイイ名前だな!」
うん、これは本気だ。妖精が記憶喪失なんて聞いたことがない。
「で、お前の名前はなんだー?」
また厄介ごとが増えてしまった。けれどもここでさよならするほど腐っちゃいない。魔理沙とかに見つかったらあることないこと吹き込みそうだし、面倒が増えること間違い無しだ。
「はぁ……。私の名前は霊夢。博麗霊夢よ。神社の巫女。で、ここはあんたが住んでる(?)湖の畔よ。」
「ふーん。れいむか。変な名前だな。あたいの方がカッコイイな!」
記憶が無い意外は特に変わった様子は無い。というか、記憶無くなっても特に問題無い気がしてきた。どうしよう?
「ねぇチルノ?あなた、どうやら記憶が無いみたいだけど、どうしてもって言うなら一緒に記憶が戻るよう協力してあげるけど、どうなの?」
屈み、チルノに目線を合わせて問う。
「んー、あたいとれいむって知り合いだったんだよね?他にもいっぱいあたいのこと知ってるヤツがいるんでしょ?だったら、記憶戻したいかな。だって、あたいが知らないのに、皆があたいのこと知ってるなんて気持ち悪いもん。」
「……そっか、わかった。じゃあ私が協力してあげるわ!幻想郷の厄介事は私に任せなさい。無事解決してあげるんだから!」
胸を張ってチルノに答える。
「おー!じゃあ、よろしく頼むぜ!れいむ!」
「じゃあ、まずは紅魔館に行って記憶喪失の治し方を調べましょう。あそこの本なら何かわかるはずよ。」
ついでに用事も済ませて一石二鳥。さらにチルノといれば暑さも凌げて万々歳。まぁ、それ以上に面倒なやっかいごとがあるのだからどうかとも思うが。
紅魔館へ向かう前にチルノに手を差し出す。記憶が無いなら右も左も分らない状態だろう。元々右がどっちで左がどっちかも分らなかったかもしれないが。
差し出した手と微笑む顔を交互に見て、何が嬉しいのか満面の笑みを浮かべ手を握り返した。
「よし、それじゃあしゅっぱーつ!」
握った手をぶんぶんと振りながら霊夢とチルノは紅魔館に向かって進みだした。
つづく!
ただでさえ真上からの日差しで暑いというのに湖からの照り返しで2倍は暑い。
夏が終わったとはいえ時期はまだまだ秋と呼ぶには程遠い。太陽は近いし、今日は雲も無い。
湖面からは熱された水が水蒸気となって立ち昇り、不愉快指数は赤丸急上昇中。とどまることを知らないその湿度で湖上空は一種のサウナと化していた。
「…うぅ……頭がフラフラしてきた……。」
そんな天然サウナをフラフラとふらつきながら飛ぶのは博麗霊夢。空飛ぶ幻想郷の巫女だ。真っ赤な袴に真っ白な上着。ただし上着は肩から脇まで大きくくり貫かれた形になっている。頭には真っ赤なリボンをつけており、上から赤、白、赤と紅白の出で立ちだ。
一点、違う点を上げるとすればそれは真っ黒な髪。リボンで縛ってあるので肩に掛かる程度の長さに見えるが、リボンを解けば流れるような漆黒の髪が現れる。
しかし現在は服も髪も汗でベトベト。不愉快指数が増す要因の一つと成り下がっていた。
「これは…遠回りでも迂回すればよかったわ……このままじゃ、命が危ないわ……。」
そんな空飛ぶ巫女も暑さにはどうすることもできず、犬のように舌を出し滝のような汗を拭いながら遥か前方に見える陽炎に揺れる紅魔館を見つめていた。
霊夢が向かう先は紅魔館。あそこに住むメイドに呼び出しを食らったのだ。先日食料を分けてもらった借りがあるので断ることができなかった。
「あ~、もう1度霧で覆ってもらおうかしら?少しは涼しくなるだろうし……。」
そんな愚痴をもらしていると視界の端に青い影を捉えた。
「ん?あれは……チルノかな?」
この辺りで青いヤツなんて十中八九チルノだろう。
「そうだ!」
チルノと言えば氷の妖精。年中冷気を放っているはず。つまり、
「お持ち帰りしよう!」
夜寝苦しい時もチルノがいれば大助かり。多少うるさいかもしれないが、まぁ袋にでもつめて抱き枕にすれば大丈夫だろう。熱で頭がぼーっとしてる割には良い考えが出たものだ。
紅魔館へ向かうコースを外れ、チルノらしき人影のある湖の畔へと向かう。
距離はそう遠くはなく、数秒も飛べばチルノの姿をはっきりと捉えられる距離まできていた。
チルノはどうやら大の字で寝そべっているようで、こちらに気づいた様子は無い。この暑さで氷の妖精もバテてしまっているのだろうか?
さらに数秒、チルノの姿は小指と同じくらいのサイズになっていた。しかし未だにこちらに気づく様子は無い。さらに近づいてから気が付いたが、どうやら目を閉じている様だ。昼寝中だろうか?この暑い中を?
少し心配になってきた。チルノは身動ぎ一つせず地面に仰向けに横たわっている。顔が青白いのはいつも通りだとしても、嫌な感じがする。
「まずいわね……。私って嫌な予感ばっかり当たるのよね…。」
急ぎ地面に降り立つとチルノの傍へ駆け寄る。
「チルノ!チルノー!」
名前を呼びながら頬を叩く。頬を叩いてもチルノは目を覚ます様子は無い。呼吸を確認すると一応浅いが呼吸はある。っていうか妖精もちゃんと呼吸するのね。
チルノの頬はビショビショになっているが、汗ではなく少し溶けてしまっているようだ。どうやらこの状態になってから多少時間が経過しているらしい。
「チルノ!おーいチルノ!バカチルノ!起きなさいバカ!バカ⑨!」
馬鹿という単語に反応してチルノがうめき声を上げた。さらに数回ペチペチと頬を叩くとチルノが苦しそうに眉を寄せ、硬く閉じられていた双眸が開かれた。
「…ぁ……ぅ?…か…じゃ………ない……。」
もはや馬鹿を否定するのは本能のようなものらしい。チルノの焦点の定まらない視線に割り込むようにその顔を覗き込む。
「う……ん…?だ…れ…?」
額に手を当てて頭を振りながら上半身を起こす。頭が痛むのかしかめっ面でうめき声を上げている。
「大丈夫?あんた、ここに倒れてたのよ。何かあったの?」
「うー、わかんない……なんにも思い出せない……。」
どうやら怪我はしていないようだ。すると攻撃を受けて倒れたというわけではないようだ。
「そうか、思い出せないか…。うーん、まぁ、実害は出てないみたいだし、とりあえず私はもう行くけどどこか痛むなら後でウチにいらっしゃいな。手当てくらいしてあげるわよ。といっても、妖精だから大丈夫なのかな?とりあえずまずは日陰で体を休めなさい。」
安心した。嫌な予感はどうやら外れてくれたようだ。このまま幻想郷連続襲撃事件とかに発展していたらどうしようかと思った。
「じゃ、私は行くわね。」
そういえばすっかり汗が引いている。チルノの冷気か、それとも肝が冷えたせいか、どちらのしろ館までは何とか辿り着けそうだ。
霊夢は再び空に向かい意識を集中し、
「待って!」
たところで後ろから服の裾を思いっきり引っ張られた。
「……何よ?」
嫌な予感がする。きっとさっきのもコレだったのだろう。チルノの次の言葉を聞くために、振り返る。
「ここ、どこ?あたいの名前、知ってるの?っていうかあんた誰?」
「……は?」
どうしてこう私はいつもいつも貧乏くじばかり引いてしまうのだろうか?貧乏だから?冗談じゃない。貧乏ではなく慎ましい生活を送っているだけで決して貧乏なわけではない。確かに一日三食食べられない日もあったりするが、別に貧乏じゃない。そう、貧乏じゃないのよ。大体、貧乏だからって不幸になるわけじゃない。お金があったって不幸なヤツはいっぱいいる。それどころか災いの種になることの方が多い。それに比べ私の慎ましい生活の中で災いの種になるようなものがあるだろうか?いや、ない。なのに周りが私に不幸を押し付けているんだ。そうだ、魔理沙や、紫や、レミリアとか、そうだ私には不幸になる要素なんてないんだ。そう、私は幸せになれるはずなんだ。そう、幸せになればご飯も毎日三食――
「ふふっ…ふふふふ……。」
「……ねぇ?」
チルノの声で我に返る。そう、降りかかる不幸は幸せになるための下積み。善行を積み、私は幸せになるのだ。そう自分に言い聞かせチルノに向き合う。
なんにせよ嫌な予感は大的中してしまった様で、チルノはどうやら何らかの原因で記憶喪失となってしまったようだ。チルノがこんな気の利いた冗談を言うわけがないし、そもそもそんな考えにいたらないだろう。しかし、一応確認をしないといけない。誰かの入れ知恵ということも考えられる。
「それ、本気で言ってるの?チルノ。」
「チルノ?それがあたいの名前か?ふーん、チルノ……カッコイイ名前だな!」
うん、これは本気だ。妖精が記憶喪失なんて聞いたことがない。
「で、お前の名前はなんだー?」
また厄介ごとが増えてしまった。けれどもここでさよならするほど腐っちゃいない。魔理沙とかに見つかったらあることないこと吹き込みそうだし、面倒が増えること間違い無しだ。
「はぁ……。私の名前は霊夢。博麗霊夢よ。神社の巫女。で、ここはあんたが住んでる(?)湖の畔よ。」
「ふーん。れいむか。変な名前だな。あたいの方がカッコイイな!」
記憶が無い意外は特に変わった様子は無い。というか、記憶無くなっても特に問題無い気がしてきた。どうしよう?
「ねぇチルノ?あなた、どうやら記憶が無いみたいだけど、どうしてもって言うなら一緒に記憶が戻るよう協力してあげるけど、どうなの?」
屈み、チルノに目線を合わせて問う。
「んー、あたいとれいむって知り合いだったんだよね?他にもいっぱいあたいのこと知ってるヤツがいるんでしょ?だったら、記憶戻したいかな。だって、あたいが知らないのに、皆があたいのこと知ってるなんて気持ち悪いもん。」
「……そっか、わかった。じゃあ私が協力してあげるわ!幻想郷の厄介事は私に任せなさい。無事解決してあげるんだから!」
胸を張ってチルノに答える。
「おー!じゃあ、よろしく頼むぜ!れいむ!」
「じゃあ、まずは紅魔館に行って記憶喪失の治し方を調べましょう。あそこの本なら何かわかるはずよ。」
ついでに用事も済ませて一石二鳥。さらにチルノといれば暑さも凌げて万々歳。まぁ、それ以上に面倒なやっかいごとがあるのだからどうかとも思うが。
紅魔館へ向かう前にチルノに手を差し出す。記憶が無いなら右も左も分らない状態だろう。元々右がどっちで左がどっちかも分らなかったかもしれないが。
差し出した手と微笑む顔を交互に見て、何が嬉しいのか満面の笑みを浮かべ手を握り返した。
「よし、それじゃあしゅっぱーつ!」
握った手をぶんぶんと振りながら霊夢とチルノは紅魔館に向かって進みだした。
つづく!
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